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全身の筋力が徐々に衰える難病「脊髄性筋萎縮症(SMA)」について、名古屋大などは発症する可能性を早期に検知できる新たなスクリーニングキットを開発し、来年の実用化を目指すと発表した。
SMAは、運動神経の維持に必要なたんぱく質をつくる遺伝子(SMN1)の欠失や変異によって起きる神経性の筋萎縮症で、新生児の2万人に1人が発症するとされる。近年は点滴や飲み薬などによる治療で改善がみられるようになったが、病気が進行後の治療効果は限られているため、早期発見が求められていた。
23日に熊本城ホール(熊本市中央区)で行われた「日本マススクリーニング学会」で、研究を主導した同大発のベンチャー企業「Craif(クライフ)」が新キットについて解説。従来の検査期間1~2週間を1時間半に短縮できるとし、血液ではなく唾液で検査することから新生児の負担軽減につながることを説明した。同社によると、新キットは新生児から採取した唾液と試薬を混ぜてSMN1を増幅させ、特殊な紙に流し込んで判定する。
研究を担当した同大の平野雅規・特任講師は「実用化に向けて、積極的に検査を実施する。すぐに導入できる方法なので、検査を導入していない産科クリニックでも使ってもらいたい」と話した。
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【バンコク=佐藤友紀】タイの保健当局は22日、アフリカ中部で急速に広がる感染症「エムポックス(サル痘)」の新系統のウイルス感染者がタイ国内で確認されたと発表した。英BBCなどによると、新系統のエムポックスウイルスの感染がアジアで確認されたのは初めて。発表によると、感染が確認されたのは欧州出身の66歳の男性で、14日にアフリカから中東を経由してタイに入国した。
世界保健機関(WHO)は14日、エムポックスの急速な感染拡大を受け、緊急事態宣言を出した。
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あまり飲酒をしない人にも起こる肝炎「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」など二つの肝臓の病気について、日本消化器病学会と日本肝臓学会は22日、新たな病名を発表した。
NASHはアルコールやウイルス以外の原因で、肝臓が炎症を起こす病気。国内に患者は約200万人いると推計される。NASHとその前段階の脂肪肝を合わせた病気は「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼ばれていた。
元の英語名に含まれる単語「アルコホリック」と「ファティ」が、それぞれ「飲んだくれ」「太っちょ」を意味して差別的だとして、昨年6月、欧州肝臓学会が病名を変更。日本語での名称が議論されてきた。
新名称は、NASHの大部分が「代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)」、NAFLDは同様に「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」となり、心血管疾患のリスクが高いという。体内で栄養素などを合成・分解する「代謝」の異常に関する病気であることを明確にした。
日本消化器病学会理事長の持田智・埼玉医科大教授(肝臓内科)は「やや長くてなじみにくいかもしれないが、正確な日本語訳とした。市民公開講座などで取り上げて『代謝』の用語を定着させたい」としている。
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東京医科歯科大などの研究チームが、遺伝物質メッセンジャーRNA(mRNA)を高齢者に多い膝の関節痛の患者に投与する治験を計画していることがわかった。対象の病気は「変形性膝関節症」で、国内の患者は推計2000万人以上に上る。整形外科分野でmRNA医薬品が実用化されれば世界初。チームは2030年代の承認と普及を目指している。
変形性膝関節症は膝の軟骨が加齢などで少しずつすり減り、関節が変形する病気。痛みで歩行や階段の利用が難しくなり、高齢者の外出や運動が減って健康寿命を縮める一因になる。対症療法や運動療法はあるが、進行が速いと人工関節を入れる手術などが必要になる。
位高啓史・同大教授らのチームは、人工的につくったmRNAで膝の痛みを抑える新しい再生医療の治験を計画した。mRNAは新型コロナウイルスワクチンの主成分として注目され、他の疾患に応用する研究が世界的に進んでいる。
今回のmRNAは、膝軟骨の細胞の働きを高めるたんぱく質の遺伝情報でできている。患者の膝に注入すると、膝の細胞がこのたんぱく質を作り出し、軟骨を構成するコラーゲンを増やすなどして、軟骨が壊れるのを防ぐ。動物実験では軟骨の摩耗や関節の変形を抑えることに成功した。
治験には、mRNA医薬品の開発を手がけるバイオ企業「NANO MRNA」(東京都港区)などが協力する。mRNAを直径1万分の1ミリ以下の膜に包んだ粒子状の医薬品とし、膝の細胞に届きやすくする。
治験は少人数から始める方針で、年度内にも治験計画を国の機関に提出する。安全性が確認できれば治験の人数を増やし、有効性を検証した上で、医薬品としての承認をめざす。
位高教授は「変形性膝関節症の痛みと進行を抑え、将来の関節手術を避けられれば、患者の身体的、経済的な負担を軽くすることができる。mRNAを使った日本発の新しい医療を届けたい」と話している。
◆ メッセンジャーRNA(mRNA) =細胞の中にあり、生命活動に必要なたんぱく質の設計図として働く小さな物質。細胞の核からDNAの情報を写しとり、たんぱく質を合成させる働きがある。
mRNAを使った医薬品
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白血病患者らへの骨髄移植を仲介する日本骨髄バンク(東京)が、提供希望者(ドナー)の了承を得る「最終同意書」の電子化に乗り出したことがわかった。先月試行を始め、近く本格運用する方針で、手続きにかかるドナーの負担を軽減するなどの狙いがある。だが従来の同意書にあった弁護士ら「立会人」の署名欄が削除され、一部の弁護士から「手続きの正当性を確認する立ち会い制度の不要論につながりかねない」と懸念の声が出ている。
骨髄移植は、患者とドナーの白血球の型(HLA)が適合して初めて可能になるが、その確率は数百~数万分の1とされる。適合してもドナーの健康状態や仕事の都合などで移植に至らないケースも多い。ドナーにとっては、準備にかかる長い拘束時間が負担となっていた。
こうした現状を踏まえ、バンクではHLAが適合した後の手続きについて、提供までの調整を担う「コーディネーター」とドナーらの面談のリモート化などの議論を進めてきた。6月からはドナーの健康状態などを確かめる「確認検査」で、一部のコーディネーターが担当する案件を対象に電子化を試行導入。バンク側がドナーのスマートフォンなどにSMS(ショートメッセージサービス)を送り、ドナーは記載されたURLにアクセスして手続きを進める。
医師らがドナーと対面して行う最終同意書の手続きについても、7月中旬から確認検査と同様の仕組みで試行が始まった。従来は、「医師らがドナーに医療事故などのリスクを十分に説明した」「ドナーが自らの意思で提供を希望している」ことなどを弁護士ら「立会人」が確認し、同意書に署名する形で行われていた。バンクでは、電子化で書面の紛失を防ぎ、リモート化促進によるドナーの負担軽減につながるとしている。
一方で、ドナーの同意手続きに弁護士が立ち会う制度は残るものの、署名欄は削除されることになった。バンクでは「誤送信による情報漏えいを防ぐため」(担当者)としているが、関係者によると、バンク内では手続き簡略化に向けて立ち会い制度の廃止を望む声も根強いとされる。立会人経験のある弁護士は「制度の不要論につながり、ドナーの人権が適正に守られなくなる恐れもある」と危惧している。
立ち会い制度 真の同意確認
最終
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【ニューヨーク=金子靖志】パレスチナ自治区ガザの保健当局は16日、発症すると手足のまひなど後遺症が残ることもあるポリオの感染が確認されたと発表した。国連のアントニオ・グテレス事務総長はこの日、国連本部で記者団に、流行阻止には子どもたちへのワクチン接種が必要だと訴え、ガザで戦闘を続けるイスラエルとイスラム主義組織ハマスにワクチン接種のための即時停戦を呼び掛けた。
世界保健機関(WHO)によると、ガザでは過去25年間、ポリオの感染が確認されていなかった。WHOは7月下旬、ガザの下水からポリオウイルスが検出されたと発表していた。国連は、10歳未満の64万人以上を対象にワクチン接種を始める準備を進めている。
グテレス氏は記者団に「流行を食い止めるには、大規模な緊急対策が必要だ」と述べた。
ガザでは水道や衛生施設は長引く戦闘で壊滅状態となっており、定期的な予防接種も中断されている。グテレス氏は、はしかやA型肝炎も流行していると指摘し、感染症対策の重要性を強調した。
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厚生労働省は、臓器あっせん機関の日本臓器移植ネットワーク(JOT)に対し、脳死の可能性のある患者について、医療機関から受けた連絡への対応状況を全て報告するよう指示した。JOTの対応が遅れ、脳死判定を行う医療機関にしわ寄せが生じ、家族にも心身の負担が増しているとの指摘があるためで、実態を把握し、改善を図る。
厚労省の指針では、脳死の可能性のある患者を確認した医療機関がJOTに連絡する。JOTはコーディネーターを医療機関に派遣し、家族に臓器提供の説明や意思確認を行うとしている。しかし、コーディネーターの不足などで医療機関への派遣が遅れることで、脳死判定を行う時間が後ろにずれ、家族も待たされる事態が医療関係者から指摘されていた。
厚労省はJOTから、患者の状態など医療機関から寄せられた連絡の内容や、対応の詳細、要した時間について報告を受ける。時間がかかったケースは原因の分析を進め、迅速化に向けた方策の検討を進める。
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【ジュネーブ=森井雄一】世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は14日、アフリカ中部で急速に広がる感染症「エムポックス(サル痘)」について、「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。同感染症に緊急事態が発出されるのは約1年3か月ぶりとなる。
天然痘に似たエムポックスはもともとアフリカの風土病だったが、2022年に入って欧米などで感染が急拡大。WHOは同年7月に緊急事態を宣言し、感染者数が落ち着いた23年5月に宣言を解除していた。
WHOによると、コンゴ民主共和国では今年に入り1万4000人以上の感染が報告され500人以上が死亡するなど、主にアフリカ中部で感染が拡大している。
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脳死下の臓器提供者と移植希望者をつなぐあっせん業務について、厚生労働省は14日、日本臓器移植ネットワーク(JOT)が担う現在の体制を見直し、複数のあっせん機関を整備する方針案を示した。業務集中や人手不足などから、JOTによるあっせんの対応が遅れているとの指摘を受けたもので、体制強化につなげる狙いだ。
方針案は、14日に開かれた臓器移植委員会で提案された。
JOTは現在、眼球を除けば、国内唯一のあっせん機関となっている。脳死の可能性のある患者を確認した医療機関から連絡を受けて、臓器移植コーディネーターを派遣し、家族に臓器提供の説明や意思確認を行う。移植候補者の選定や摘出した臓器の搬送手配にもあたる。
現在29人のコーディネーターが在籍するが、医療機関への派遣や対応の遅れが指摘されていた。
このほか、厚労省は、移植希望者が移植を受ける施設の登録を現行の1か所から、複数できるようにする案も提示した。移植施設の人員や病床の不足などから、臓器の受け入れを断念する事例が相次いでいるためだ。移植を辞退した件数などを施設ごとに公表する方針も示した。
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東北地方の住民の血液などを収集して分析する東北大の「東北メディカル・メガバンク機構」が、目標としていた10万人分の全ゲノム(全遺伝情報)解析をほぼ終えたことがわかった。大規模なゲノム分析から、遺伝子レベルで体質や病気の原因を調べ、新薬開発などに貢献することが期待されている。
個人のゲノムには、すべての人に共通する部分のほか、特定の病気になりやすいといった体質や、日本人の特徴など、集団や個人によって少しずつ違う部分が含まれている。
同機構は2012年、東日本大震災で被災した住民の健康状態の把握や、病気の仕組みの解明を目指すバイオバンクとして設置された。13年から宮城県、岩手県の住民らを対象に、健康診断などで解析に同意した住民から、血液などを集めてきた。
バンクのゲノム情報は、本人の健康状態や生活習慣などの情報と関連付けられており、詳細な分析ができる。大学だけでなく全国の製薬企業も研究できるため、病気のメカニズムを調べたり、新薬の開発に利用したりして、日本の医療レベルを引き上げる効果が期待されている。
バイオバンクは各国で整備が進んでおり、英国は50万人、米国は24万人の解析が終わっている。同機構に携わる 長神風二・東北大教授は「10万人規模の全ゲノム情報があれば希少な病気の分析もしやすくなる。バンクの利用が広がるはずだ」と期待している。